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水谷隼インタビュー 第1回「一球で試合は変わる。戦術以外には何もない」

 平成30年度全日本卓球選手権大会で、王座を奪還し、ついに自身の持つ優勝記録を10に伸ばした水谷隼(木下グループ)。卓球レポートでは2回に分けて、日本卓球界のキングとして帰還した水谷のインタビューを掲載する。

 試合の序盤では水谷隼を一方的と言っていい内容で攻め立てていた相手が、いつの間にか雲行きが怪しくなり、最後には為す術なしといった体で敗れる。そんな試合を何度見てきただろうか。
「結局、水谷隼が勝つのか」と安堵とも落胆ともいえない心境を会場が共有する時、予定通りと言わんばかりの表情で、淡々と得点を重ねる水谷は、私たちに畏敬の念とともに、なぜそんなことが水谷にだけ可能なのかという疑問を抱かせもする。

 平成30年度全日本卓球選手権大会、最終日の男子シングルス準決勝の木造勇人(愛知工業大)戦はまさに典型的な「水谷の試合」だった。第1ゲームを息もつかせぬ速攻で奪った木造が、2ゲーム目から4ゲーム連続で落とし、最後は「ボールにも触らせてもらえなかった」というほどまでに、見事に形勢を覆された。
 やはりここでも、同じ疑問が頭をよぎった。なぜ、こんなことが水谷にだけ可能なのか。その問いに水谷はこう答える。

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「やはり、戦術ですね。特に木造戦は、最初はサービス・レシーブで様子をうかがって、どんなサービスが来るのか、それに対してどんなレシーブをしたらいいのか、自分がサービスのときはどこにどんなサービスを出したら効くのか、様子を見ながらプレーします。それこそ、1ゲーム目を捨ててでもいいから、そうやって相手の弱点を探しますね」

 その言葉はシンプルだが、観察眼の鋭さ、緻密さに加え、目の前の点の取り合いという勝負から降りてでも、試合に勝つための情報を獲りに行くという大胆さは、水谷の勝負師の一面を強く表しているだろう。そして、おそらくそれは、序盤のゲームを捨ててでも、いや、捨てたからこそ試合に勝ったという経験を積み重ねてきた水谷だからこそ確信を持ってできることなのだろう。

 だが、と凡夫は思う。それだけでオセロの盤面が塗り替わるように戦況が変わるものなのだろうか。もっと私たちの目には映らない神秘的な何かがあるのではないだろうか。そんな馬鹿げた問いにも水谷は真摯に答えてくれた。

「戦術以外の『何か』はないですね。それくらい卓球には戦術が重要だということだと思います。戦術一つですべてが変わってしまう。相手の苦手なところにボールを送れば、その一球で試合がガラッと変わるのが卓球です」

 まだ疑問は尽きない。一時的にとはいえ、水谷を一方的にやり込めていた選手が、微塵もチャンスがないと感じるほどまでに追い詰められるのはなぜなのか。また、そう感じさせているのは何なのか?

「そこは僕がうまく変えましたね。相手が警戒し始めたら、警戒していないところにわざとサービスを出したりして読ませないようにする。こちらが相手の弱点を突くと、当然相手はそれに気づいて警戒するじゃないですか? それは僕も感じるので、相手がヤマを張ってきたなというタイミングで逆を突く。そうすると相手はどっちに来るかわからないという心理状態になってくるので、そこでまた相手の弱点を攻めていく。そういうことを繰り返して、常に自分が試合の主導権を握るように意識していました」

 もちろんそうした戦術の行使は高い技術レベルがあって初めて可能になる話なのだろうが、水谷の話を聞いていると「100メートル走をしながらチェスをするようなスポーツ」と喩えられる卓球の「チェス」の比重が、他の選手と比べて非常に高いと感じる。
 それでは、どうすればチェスに強くなれるのか。水谷は端的にこう答える。

「大事なのは冷静に試合を分析すること、冷静に相手の弱点を見つけることですね」

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 それでは、水谷から見て、戦術に長けた選手は誰なのだろうか?
「中国選手はみんなうまいですね。戦術の切り替えも早く、大胆さもあります。終盤になってくると、自分のいやなところを的確に突いてきますね」

 話を日本選手に振ると意外な名前が飛び出した。
「日本では、賢二(松平賢二。協和発酵キリン)が結構惜しいところまで来てますね。10年くらい前からいいところまでは行ってると思います。やってることは悪くないけど、何かが足りないですね(笑)。
 張本(智和。JOCエリートアカデミー)には、まだそんなに戦術的なところではびっくりさせられたことはありません。技術で驚かされることはありますが、『ここで、そんなことしてくるのか!?』と思うような戦術を取られたことはないですね。
 逆に僕が深読みしてしまって裏目に出ることが多いんですよ。『世界のトップ選手ならこうしてくるだろう』というところで、案外普通にやってくるので(笑)」

 ユーモアを交えて張本の戦術力について語った水谷だが、それは「戦術面ではまだまだ伸びしろがある」という後輩への檄でもあるのだろう。


水谷隼:https://www.butterfly.co.jp/players/detail/mizutani-jun.html

(写真=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 ※文中敬称略)

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