~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回も、世界卓球2019ブダペスト(個人戦)の男子シングルスについて宮﨑強化本部長が振り返ってくれる。今回は、男子シングルスを制した馬龍(中国)の強さについて分析していただいた。
馬龍の完全復活を裏で支えた中国の組織力のすごさ
前回まで、世界卓球2019ブダペスト(以下、世界卓球)の男子シングルスにおける日本勢について評価や感想をお話ししました。今回は、男子シングルスを制した馬龍(中国)の強さについて、私なりに紐解きたいと思います。
今大会の馬龍は、圧倒的な強さで優勝し、三連覇を果たしました。馬龍の圧勝劇の背景には、彼の心技体智の素晴らしさもさることながら、中国の組織力があります。今回は、そのことについて述べましょう。
馬龍は昨年(2018年)の後半、ひざの故障により、ワールドツアーや男子ワールドカップなど主要な国際大会への出場を相次いでキャンセルしました。今年に入っても2月に行われた世界卓球中国代表の選考会を欠場し、「馬龍は今回の世界卓球に間に合わないのではないか」と世界中が噂していましたし、私もそう読んでいました。
ところが、馬龍は3月終盤に行われたワールドツアー・カタールオープンに突如エントリーし、故障する前と変わらないどころか、さらに強さが増したようなプレーで優勝をさらいました。いくら実績と経験のある馬龍とはいえ、日進月歩で進化する卓球において、長期離脱後にあれほど素晴らしいプレーができるものではありません。
私は馬龍の復活劇に驚き、中国卓球協会の劉国梁会長とお会いした際に「なぜ馬龍は長く休んでいたのに、あんなに強いのか」と尋ねました。すると、「馬龍はひざのけがで休んではいたが、けがが癒えてからは、周囲が制止するほどハードなトレーニングや打球練習を行っていた。私たちも、けがが完治し、力が完璧に戻ってからでないと、馬龍を試合に出場させるつもりはなかった」と劉国梁会長は答えてくれました。
けがの完治だけでなく、プレーも完璧に戻してから復帰させるという劉国梁会長の言葉で、馬龍の復活劇に納得しました。それと同時に、劉国梁会長との会話は、組織として、国の体制としての中国の強さを私に感じさせるものでした。
仮に、日本で主軸選手がけがで休養したとしたら、馬龍のように状態が完璧に戻るまで待つことができるでしょうか。答えは、難しいと言わざるを得ません。日本国内の競争は激しいですから、けがが完治しなくても、痛みがやわらげば選手自身が遅れを取るまいと強行出場するでしょう。それを上から強制的に止めることは日本ではできません。
加えて、主軸選手には結果を期待しますから、首脳陣としては多少のけがには目をつぶらざるを得ない事情もあります。
今回の世界卓球における馬龍の圧勝劇の背景には、主軸が不在でも世界トップを維持できる中国の層の厚さと、首脳陣が主導して選手のサポートやスケジュールを一括できる中国卓球協会の組織としての強さがあることを、劉国梁会長の言葉は物語っていました。
次回は、馬龍の技術面や戦術面での強さについて、私の見解を述べたいと思います。
(取材=猪瀬健治)