~宮﨑強化本部長に聞く日本の強化策~
日本の最前線ではどのような強化が行われているのか。そのさまざまな方策について、日本卓球界の強化の長である宮﨑義仁強化本部長に聞く本企画。
今回は、石川佳純(全農)に対する評価を紹介しよう。
石川佳純には、柱として日本女子を支えてほしい
前回まで、伊藤美誠(スターツ)について述べました。
今回は、石川佳純(全農)についてお話ししたいと思います。
石川は、オリンピックレースで拮抗していた平野美宇(日本生命)を僅差で抑えて日本女子の中で世界ランキング2位を確定し、伊藤とともに2020年東京オリンピック日本代表候補選考基準をクリアしました。
熾烈な代表争いを制した石川の最大の強みは、経験です。
2008年の世界選手権広州大会(団体戦)からこれまで、長きに渡って日本代表の看板を背負ってきた石川には、若い世代の選手では持ち得ない豊富な経験が蓄積されています。その経験によって培われた戦術能力は、タレントひしめく日本女子の中でも頭一つ抜けています。
有効な戦術や、劣勢を盛り返す戦術を探し当て、それを実行して試合に勝ち切るのは、石川のプレーの真骨頂といえるでしょう。
ベテランと呼ばれてもおかしくない年齢にさしかかっている石川が、これから攻撃力の高い新たな技やパターンを身に付けることは難しいと思いますが、それを補って余りある戦術能力を駆使すれば、世界のトップに十分立ち向かうことができます。
また、戦術のみならず、石川がたどってきた道程は、彼女自身の立ち居振る舞いも磨いたと思います。
世界卓球2018ハルムスタッドやワールドカップ団体戦2019東京など、近年の国際大会での団体戦を見れば分かる通り、石川がまとめ役として日本女子ベンチにもたらしている安定感は簡単には替えが利きません。
今後も、石川には日本女子の柱としての役割を期待しています。
試合の終盤までスタミナをキープすることが課題
百戦錬磨の石川ですが、課題をあえて挙げるとするなら、「スタミナ」です。
石川は、大きな国際大会になると食が細くなって体重が減る傾向があります。それに伴い、終盤にスタミナが不足してしまう試合がこれまでいくつか見られました。
記憶に新しいところでは、今年(2019年)の4月に行われた世界卓球2019ブダペストです。石川は女子シングルス4回戦で杜凱琹(香港)にゲームオール9本で競り負けましたが、あの試合は技術や戦術よりも、終盤にスタミナが不足して動きのキレが悪くなったことが敗因だと私には見受けられました。
また、2016年リオデジャネイロオリンピック女子シングルスでも、石川は初戦でカット主戦型のキム・ソンイ(北朝鮮)と対戦し、ゲームオールまでもつれ込む接戦になりましたが、終盤に足がつって思うようなプレーができず、敗れました。この試合も、終盤にスタミナ切れで足がつったことが敗因の一つであることは明らかです。
激しい競り合いになってもスタミナを維持することが、石川の課題ですが、最近の国際大会では石川自身のスポンサーである全農さんが日本チームに補食等を提供してくださり、食生活や栄養面は充実してきています。それに伴って、日本チーム全体はもちろんですが、石川のスタミナ面にも改善が見られるようになりました。
来夏に大きな収穫を目指す日本女子にとって、石川はその鍵を握ります。
しかし、いくら経験を積んで技や戦術を磨き上げたとしても、スタミナが切れてしまったらそれらを発揮することはできません。ガソリンがなければ、どれだけハイスペックな車でも走らないのと同じです。
石川には、スタミナを最後まで維持するという課題をしっかりと克服して、2020年東京オリンピックでは日本女子の中心として躍動してほしいと思います。
取材=猪瀬健治
写真提供=ITTF(国際卓球連盟)