2人のトップ選手が互いのラケットを交換せずに、自分の用具について語る新企画(?)「ちょっと、それ貸さない」。宇田幸矢、戸上隼輔(ともに明治大学)の最近の使用用具について、変更の理由、プレーがどのように変わったか、テナジー、ディグニクスそれぞれの特徴などについて聞いた。
宇田幸矢(明治大学)左シェーク攻撃型。東京都調布市出身。センスフルな両ハンドプレーで、全日本ホープス・カブ・バンビでは、バンビの部、カブの部で優勝。その後も全日本カデット(13歳以下の部、14歳以下の部)、全国中学校大会など全国タイトルを獲得し存在感を示してきた。2020年全日本卓球選手権大会男子シングルスで初優勝を飾り、念願の全日本チャンピオンの座に就いた。
宇田幸矢の使用用具
ブレード:バタフライ特注(ZLカーボンシェーク/インナーファイバー®仕様)
ZLカーボンを搭載したインナーファイバー®仕様のラケット
フォア面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー
バック面ラバー:ディグニクス80 (トクアツ)
回転とスピードのバランスをハイレベルで実現するラバー
右シェーク攻撃型。三重県津市出身。前陣から繰り出す鋭い両ハンドドライブの連続攻撃を武器に次世代のエースを狙う。平成30年度、令和元年度インターハイ男子シングルス優勝。平成30年度全日本卓球選手権大会ジュニア男子優勝。2020年全日本卓球選手権大会男子シングルス3位。
戸上隼輔の使用用具
ブレード:張継科ALC-FL
アリレート カーボンを搭載した攻撃用シェークラケット
フォア面ラバー:ディグニクス05(トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー
バック面ラバー:テナジー05(トクアツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー
宇田「ディグニクスはコントロールしやすい」
戸上「ラケットを軟らかくしたらよくなるという直感があった」
卓レポ 今の用具に変えた時期と、変更の理由を教えて下さい。
宇田 僕が今の用具に変えた時期は2年前(2018年)の3月です。理由は、それまで両面に貼っていたテナジー05ハードはラケットの重量が重くなる分、両ハンドで質の高いボールが打てましたが、ブロックが難しいと感じていました。また、常に全力でフォアハンドを打つことができればいいのですが、実戦の打ち合いの中で自分がベストだと思うところで打てるボールは何本もありません。
それで、フォア面にディグニクス05を試したときに、テナジー05ハードよりも威力は落ちるけど、力を入れなくても簡単に軌道が出て(弧線を描いて)、質の高いボールを打つことができました。ゆっくりなボール、速いボールなどボールのスピードをコントロールしやすい点もいいと思いました。
卓レポ バック面にディグニクス80を選んだ理由を教えて下さい。
宇田 以前は、バック面にもテナジー05ハードを貼っていましたが、ブロックがやりづらかったので、ディグニクス80に変えてブロックがやりやすくなりました。
それから、以前はバック側に深くツッツキされたときにミスが多いという課題がありましたが、ディグニクス80だと、ツッツキされたときも回転がかけやすくボールが上に出るので、ツッツキ打ちのミスが減りました。ディグニクス05もよかったんですが、ディグニクス80の方が、ボールが食い込んで、相手コートに簡単に入ってくれる感覚が強かったですね。
また、下回転に対するバックハンドドライブだけでなく、試合や練習でロングボールに対してバックハンドドライブを連打するときも、球持ちがよく、自分でコントロールしやすいと感じたので、バック面はディグニクス80に決めました。
戸上 僕が去年(2019年)まで使っていた張継科 ZLCは、上からたたきつけるようなボールが出せるラケットですが、軌道が直線的で、球持ちがあまりよくありませんでした。張継科 ALCに変えたことで、少し曲線(弧線)を描くようなボールになり、安定感がとても上がって、回転量も増して、深く勢いのあるボールが出せるようになりました。
ラケットは、硬めから軟らかめに変えたらもっといいボールがいくんじゃないかという直感があって、それで橋津先生に相談して、その結果、それまで使っていた張継科 ZLCを張継科 ALCに変えました。
卓レポ ブレードを変えた当初は、フォア面のラバーはテナジー05ハードでしたね?
戸上 ラケットの軟らかさとラバーの硬さがマッチして、勢いのあるボールが出るようになると感じたので、フォア面のラバーはテナジー05からスポンジの硬いテナジー05ハードに変えました。
その後、全日本が終わって3月のNT合宿の時に、周りの日本代表の選手にディグニクスを使っている選手が多かったので、バタフライさんに相談して、アドバイスをいただきながらディグニクス05を試しました。ディグニクス05に変えてからは、テナジー05ハードに比べてボールの速さは落ちましたが、コントロールがしやすく、ミスも減って、安心感のあるボールが出るので、それ以来ずっとフォア面にはディグニクス05を使っています。
バックハンドは僕の場合、基本的にこする、ドライブ系のボールが多いので、以前と変わらず回転のかけやすいテナジー05を使い続けています。
宇田 テナジー05ハードだと、全力で打って、インパクトを強くしないといいボールが入らないので、威力は出ますが、安心して打てないんですよね。ディグニクス05だと強くも打てるし、時間がない時はちょっと上にこすって軌道をつくれるので、テナジー05ハードよりもディグニクス05の方が簡単に使えます。
戸上 用具を変える時、宇田にも相談しましたが、宇田もテナジー05ハードからディグニクスに変更しているので参考になりました。
僕たちがディグニクス05をフォア面に選んだ理由
宇田 ディグニクス05は弧線も出るし、相手のコートに深くに入って、相手がやりづらいと思います。球持ちはディグニクス80が一番いいですね。
戸上 ディグニクス05は基本的に、上から振っても山なりのボールが出ますが、テナジー05は(下から上に振って)回転をかけないと山なりの軌道を描かないという印象があります。
僕はサービスの回転を重視しているので、ディグニクス05に変えた時は、回転量が減ってしまうのではと心配しましたが、実際には回転もかかり安心してサービスも出せます。ただ、感覚的にサービスの回転のかけやすさではテナジー05の方が上ですね。
宇田 僕はディグニクス05がサービスの面でも一番いいと思います。全体的にディグニクス05の方がよくて、ドライブだけはテナジー05ハードの方が威力が出るけど、他の部分でディグニクス05の方が上だと感じますね。
緩急がつけやすいのもディグニクス05です。例えば、ドライブの引き合いをしていて思い切りフォア側に飛びつかされたときなど、自分で時間を作るのために、軌道が高いボールで時間を稼ぎたい場合、テナジー05ハードだとしっかり体を使って強く打たないといけないので、打った後に体勢が崩れてしまいます。でも、ディグニクス05だとそれほど強く打たなくてもしっかり回転がかかるので、体勢を崩さずに次のボールもフォアハンドで動ける。ディグニクス05の方が軌道も作れるし、直線的な速いボールも打てる。緩急もつけやすく、苦しい場面でも無理しないで打てる。時間がなくてもいいボールが出せるというメリットがあると思います。
戸上は軟らかいブレードに硬いラバーの組み合わせ、
宇田は質と安定感のバランスを重視
卓レポ 戸上選手は先輩の平野友樹選手(協和キリン)に用具に関してアドバイスしたそうですね?
戸上 言った記憶はあります。申し訳ないなと思います(笑)
でも、「軟らかいラケットには硬いラバーが合う」っていう意見は変わってないですね。僕はディグニクス05が硬いと感じるので、今も軟らかいラケット(張継科 ALC)にディグニクス05は合っていると思ってます。
前は、硬いラケット(張継科 ZLC)に軟らかいラバー(テナジー05)でしたが、そうするとラリーになった時に打ち負けてしまうことがあるんです。(2019年の)世界ジュニアの時はその組み合わせでしたが、中国選手に回転負けしてしまうことが多かった。それを軟らかいラケットに硬いラバーの組み合わせに変えて、全日本でも結果が出て、ラリーで優勢になることが多かったので、やっぱり今の時代は「軟らかいラケットに硬いラバー」なんじゃないかと思って、友樹さんにアドバイスさせていただきました(笑)
この組み合わせはスイングスピードが速くて、両ハンドに自信がある選手にはお勧めですね。ブロックが難しいと感じている選手にもお勧めです。僕自身もブロックが苦手なので。
宇田 僕のこだわりは、両ハンドの質と安定感のバランスですね。どんな場面でもいいボールが打てる用具を使いたいと思っているので、全体の質を落として、例えば、ブロックだけのやりやすさを優先するということはありませんね。あとは、チキータの質にも結構こだわっています。
今の用具は今まで使ってきた中で、そのバランスが一番いいと思います。
選手が用具を変更する理由はさまざまだが、明確な課題を持っていた宇田のような場合もあれば、直感で変えたという戸上のような場合もある。何が正解とは一概に言えないところが用具選びの難しさであり、面白さでもある。
2人が全日本で活躍できた理由には、用具選びがうまくいっていたことも挙げられるだろう。選手の求める理想のプレーは、その時々のプレーの傾向やフィジカルの変化によっても大きく変わる。求めるプレーの変化に従って、それにふさわしい用具も変わっていくのが現実だ。
技術や戦術を磨くことと同様に、「今の自分にベストの用具とは何か?」を追い求めることも、勝利に近づく手段の一つになるに違いない。
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(取材/まとめ=卓球レポート)