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パリ五輪男子シングルスベスト8 
張本智和インタビュー①

 パリ五輪卓球競技(2024年7月27日〜8月10日)の2週間にわたる激闘を終え、パリをあとにしてから約1週間後のある日、卓球レポートは張本智和(智和企画)にインタビューする機会を得た。ビッグマッチの後では恒例となったインタビューに姿を現した張本は、軽妙な冗談を交えながらスタッフにあいさつをすると、早くオリンピックの話を聞いてほしいと言わんばかりの勢いで口火を切った。
 2週間分、いや、東京オリンピックからの3年間分の話を聞くためには、駆け足になってしまった感は否めないが、言葉の端々から張本の成長が感じられる充実した時間となった。
 第1回は、張本が出場した混合ダブルスと男子シングルス1〜3回戦までを振り返ってもらった。



いろいろな面で前回とは違うオリンピックだった

――2021年開催の東京大会に続いて2回目のオリンピックでしたが、前回と異なる部分はありましたか?

張本智和(以下、張本) まず違ったのは、観客がいるかいないかという点ですね。有観客のオリンピックは初めてでしたし、自分が最年長ではありませんが、前回の団体メンバーの丹羽さん(丹羽孝希)、水谷さん(水谷隼)は僕よりも実績があるし、当時の世界ランキングは僕が一番上でしたが、2人がいるから最年少としてのびのびやれる自分がいました。
 今回は、年齢が近い(張本智和21歳、戸上隼輔22歳、篠塚大登20歳。年齢は大会当時)からこそコミュニケーションは多いけど、僕も有観客は初めてだし、どうなるんだろうという不安もありながら、本当にいろいろな面で前回とは違うオリンピックだったと思います。

――男子選手の中では張本選手だけがオリンピック経験者ということで、自分が引っ張っていかなければという思いはありましたか?

張本 団体が始まる前はありましたね。最初は混合ダブルスとシングルスは個人戦なので、それほど篠塚や戸上のことは考えていませんでしたが、(男子は)みんなメダルが取れない中で、前の2種目も出ている僕が一番会場に慣れているし、オリンピックにも慣れているし、団体は声を出して点を取りながらチームを鼓舞したいという思いはありました。


会場の異様な雰囲気を感じた

――最初に行われた混合ダブルスでは、リ・ジョンシク/キム・クムヨン(北朝鮮)に1回戦敗退という結果でしたが、この敗戦はどのように受け止めましたか?

張本 僕たちは第2シードで、全体的なドローはすごくよかったんですけど、1回戦の北朝鮮だけは少し引っかかっていました。もちろん銀メダル以上は目指していましたが、あそこで勝たないと3位決定戦にも回れないし、やはりちょっと怖さはありました。
 男子の右利きの選手は僕がアジア競技大会で去年対戦していて、フォアハンドの特徴がある選手でしたが、ちょっとフォアが上手くらいの選手と思っていました。女子の左利きの選手もバック面がツブ高で、ミスはないけど怖さもないと思っていました。
 冷静なデータ分析ではそういう選手で、世界予選のプレーを見てもすごく強いわけではない。でも、そこら辺のペアよりは強いな、というくらいのデータしかなかったので、1ゲーム目の出足でいきなり6点取られて、そこで出鼻をくじかれた感じはありました。
 その連続失点が最後までちょっと心に残ったので、出足で悪い印象を付けられたかなと思います。

――想定外の部分があったとしたら、一番はどこでしたか?

張本 一番の誤算は、男子選手のバックハンドもうまかったことですね。前回対戦したときはバックはつないでいるだけで、フォアで回り込みをうかがう選手でしたが、まずはフォアハンドのパワーも上がっていて、早田さんがブロックできないくらいでしたし、僕もあまりカウンターできなかったという点と、バックで詰まらせたと思ったら、意外にバックでカウンターしてきたのが一番想定外でしたね。フォアよりも、バックがこんなにうまかったっけって。それはちょっとビックリしました。

――プレーして、研究されているとは感じましたか?

張本 動画を見ているかどうか分かりませんが、確かにすんなりプレーしてきた感じはありました。普通にプレーしているのかもしれないし、対策してきているのかもしれないけれど、相手のプレーは質も高かったし、戦術もよかったし、本当にすごくよいプレーでした。

――今回のオリンピックで最初の試合でしたが、その後の試合に影響はありませんでしたか?

張本 ちょっと不安はありましたね。やっぱり、シードとドローを見た時点で、メダル獲得の確率は、混合ダブルス、団体、シングルスの順番だったので。混合ダブルスと団体は中国に勝たなくてもメダルを取れる位置でしたし、シングルスは状態がよくても樊振東(中国)に勝たないとメダルはないというドローだったので、一番メダルの可能性が高いミックスを落としたというのは多少ショックはありました。
 でも、どちらにしろ、シングルスはやらなきゃいけないし、シングルスのメダルを一番の目標としてきているので、1日くらい落ち込んだあとは「やらなきゃな」と、意外と引きずりはしなかったです。

――やはり有観客のオリンピックは無観客の東京とは違いましたか?

張本 すごかったですね。特に1試合目で負けたから、会場の異様な雰囲気を感じましたね。ちょっと格下を応援する会場の雰囲気で......。僕が観客でもそう思いますね。格下が勝った方が面白い、格上が負けた方が面白い。卓球を知らない人も半分以上はいたと思います。あれは怖かったですね。東京で感じたのとはまた違う、怖さ、応援の力って本当にあるんだなと改めて感じました。

第2シードで臨んだ混合ダブルスはまさかの1回戦敗退という結果に終わった(写真提供=ITTF)


ベスト8までの道のりの中でアラミヤンが一番怖いと思っていた

――シングルス1回戦、アレグロ(ベルギー)との対戦は4対0で勝利しました。
 ▼男子シングルス1回戦
 張本智和(日本) 3,2,3,5 アレグロ(ベルギー)

張本 アレグロとは1回だけ対戦したことがあって、その時は3対1で勝ったんですけど、取ったゲームも9点とか8点とか競った記憶がありました。ミックスも負けたし、結構注意してたんですけど、いい意味で切り替えられたか分かりませんが、シングルスだけに集中して、アレグロ戦に集中して、アレグロとプレーした結果ああいうプレーができたので、なんか想定外でした。びっくりしました。

――次戦のNo.アラミヤン(イラン)はちょっとクセのある相手でしたね。
 ▼男子シングルス2回戦
 張本智和(日本) -8,6,4,7,-5,7 No.アラミヤン(イラン)

張本 負けたことはありませんが、毎回競る相手で、2回対戦していて4対2と3対1で、それも限りなくフルゲームに近いような4対2と3対1だったので、ドローを見た時点で、角シードはフレイタス(ポルトガル)だったし、それに勝ったリンド(デンマーク)も見た時点で、ベスト8までの道のりの中でアラミヤンが一番怖いと思っていました。
 普通の左利きではないし、サービスもバックハンドもクセが強いので、一筋縄ではいかないと思っていましたが、4対2というスコア以上に自分のプレーはよかったと思います。
 第2、3、4ゲームを取ったときも、相手にチャンスを与えずに取れたので、最後6ゲーム目はちょっと危なかったですけど、プレーはよかったかな。相手も粘りのある選手なので、1ゲーム、2ゲーム取られるのはしようがないですけど、最後しっかり振り切れたのは、シングルス2戦目にしてはよかったですね。

警戒していたNo.アラミヤンに勝ち切って3回戦進出を決めた(写真提供=ITTF/ONDA)


――3回戦は、初戦でフレイタスを破ったリンドが勝ち上がってきました。
 ▼男子シングルス3回戦
 張本智和(日本) -8,10,5,8,6 リンド(デンマーク)

張本 フレイタスが来ると思っていましたが、そのフレイタスに4対0で勝って、その次のレジムスキー(ポーランド)に4対3で勝ってきたリンドは調子はいいんだろうなと思っていました。
 昨年の世界卓球ダーバン大会でもベスト8で、爆発力のある選手ですね。でも、僕もその前にアラミヤンとやっていて、クセのある左利きの選手には気持ち慣れていたので、カットブロックやカットレシーブをやってくる選手ですが、アラミヤンよりはやりやすいだろうという気持ちで入って、2ゲーム目までちょっともたつきましたが、1対1にした時点でもうこっちのものかなと思いました。

――リンドに勝利して順調にベスト8入りが決まりました。オリンピック特有の気負いのようなものもなかったようですね。

張本 一番苦しかったのは、アラミヤン戦の最後3対2の6ゲーム目、1-4で負けていた時が一番苦しかったですね。リンド戦の時は、コートも4台から2台に減って、ちょっとオリンピックらしい雰囲気になってきましたが、そんなに怖さはなかったです。

――トーナメントの反対側の山で第1シードの王楚欽(中国)がモーレゴード(スウェーデン)に2回戦で負けるという波乱がありましたが、心理的に影響はありましたか?

張本 本当にまったくないですね。気にしないとかではなく、僕のゾーンで起こったことではないし、非情な言い方になってしまうけど、「俺とは関係ない」って言い聞かせていました。もちろん(ラケットが破損してしまった)王楚欽のことを思うと心が苦しいし、かわいそうとしか言えないですし、本当にしようがないで終わらせてはいけないことですけど、僕のことに限って言えば、「気にするな、気にしてはいけない、気にしたら負ける」ってずっと言い聞かせてました。
 これが樊振東に起こったことで、自分のゾーンで起きたことなら、たぶんちょっと動揺はあったと思いますが、決勝まで行かなければ正直関係のないことでしたから、樊振東に勝たないと3位決定もないし、本当にまったく関係なかったですね。

第2回に続く

(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)

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