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パリ五輪女子団体銀メダル 
張本美和インタビュー後編

 弱冠16歳にしてパリオリンピック卓球競技(2024年7月27日〜8月10日)女子団体に出場し、堂々たる戦いぶりを世界に見せた張本美和(木下グループ)。見事決勝進出を果たし、日本女子の銀メダル獲得に大きく貢献した張本に、銀メダル獲得までの道のりを振り返ってもらった。
 インタビュー後編では、準決勝のドイツ戦決勝の中国戦について、また、今後の目標について聞いた。



「自分のプレーが戻ってきたのが一番ほっとした」

――準々決勝のタイ戦はチームもオール3対0で勝利して、次の準決勝の対戦相手はドイツでした。準決勝の対戦相手がインドを破ったドイツになったことについてはどう感じましたか?

張本美和(以下、美和) 最初は(1回戦の)ルーマニアとインドの勝った方が(準決勝まで)勝ち上がって来るかなと予想していましたが、(ドイツの)カウフマン選手がインド戦で2勝してチームも勝って、やっぱり注意しなきゃいけない選手だなというのはその時に思いました。小さい頃はずっと勝っていたので、その記憶はあまり参考にはしていませんが、逆に少し怖いところがあるなと思いました。
 それで映像を少しいつもの試合よりは見過ぎてしまって、それが全ての原因ではありませんが、自分があまり得意としていないプレーを最初からしてしまったり、そこで浮いたボールを打たれてしまったりとかで、全体的にカウフマン選手はすごく強かったなと感じました。

――カウフマン選手の強さはどこに感じましたか?

美和 そうですね。やっぱり結果を見ると0対3で、毎ゲーム9-11、8-11でしたが、自分がいいプレーをして得点できたというよりは、相手のミスが出た点数という感じで、最初から最後まであまり自分のプレーができませんでした。それは相手がさせてこなかったというのももちろんありますが、パワーがあってコースも鋭い選手だったので、本当に読みにくかったですね。長身の選手ですし、YGサービス(逆横回転系サービス)を最初から最後までずっと出していたので、そこはやりづらい部分ではありました。

――映像を見過ぎたことがマイナスに働いてしまったというのはどういうことですか?

美和 ここが強いから、ここを阻止したいと思って立てた対策が自分の自信を持ってできるプレーではなくて、それを連続で1ゲーム目の序盤にやってしまって、強打されたり、自分らしくないプレーばかりで、最後まで自信を持ってプレーすることができずに終わってしまった感じですね。

――相手のYGサービスにも苦しめられましたね。

美和 左利きでYGサービスを出す選手は、本当に私が経験している中ではあまりいませんでした。一試合を通してずっと出す選手もあまりいなくて、試合の中盤で1本だけ混ぜてきたりとかならありましたが、最初の1本目からずっとYGサービスだったので、やりづらかったです。

カウフマン戦では「自分のプレーができなかった」と張本。大会初の黒星を献上した(写真提供=ITTF)


――続く3番では平野選手がワン・ユアンにストレートで勝って、すぐに4番のシャン・シャオナ選手戦が回ってきました。どのような心境でこの試合を迎えましたか?

美和 本当にあの時は2番で負けてすごくメンタルにきていましたね。負けて悔しいというのはもちろんあるんですけど、それよりは自分のプレーを出せずに終わってしまったという方がすごく悔しかったです。その日はあまり感覚がよくないのもあって、誰とやっても負けてしまうんじゃないかという不安はすごくありました。
 シャン・シャオナ選手とやる前も練習はしたんですけど、練習会場では感覚があるのに、試合に行くとちょっと違う感覚になってしまって、カウフマン選手との試合が終わってからより不安になってしまって......。かといって、練習しないのも違うし、練習しても試合会場の感覚はちょっと違うし、と思いながら準備していて、本当に苦しかったですね。2番で負けて4番で絶対に回ってくるというのは分かっていて、自分が勝たなかったら5番まで回ってしまうので、そこは本当に不安はありました。
 もし最後、自分が負けてしまっても、早田さんが勝ってくれるともちろん信じていましたが、自分が2点落として決勝に行くとなったら、より自信がないままの試合になってしまうというのがあって、もし負ける可能性があったとしても、自分のプレーを取り戻したいという思いで試合に挑んだので、結果、自分らしいプレーができて勝つことができてよかったです。

――練習と試合の感覚の違いの原因はなんだったと思いますか?

美和 正直に言うと、感覚が一番の原因というよりはメンタルの問題かなというのがあって、カウフマン選手戦は1ゲーム目から自分らしくないプレーばかりしていたので、感覚がよくないままずっと最後の1本までプレーしてしまいました。練習会場は試合じゃないので、ちょっとはリラックスしてやれたので、ボールもいい感じだったんですけど、試合になってしまうと会場の雰囲気や、何が起こるかわからないというところで、メンタルがダメだったんだなというのは今は思います。

――張本選手は劣勢でも試合中の対応力の高さで挽回することも多いと思いますが、カウフマン選手戦ではそれがあまりいい形で出せませんでした。そこにはオリンピック特有の何かがあったと思いますか?

美和 絶対ありますね。自分では思っていなくても「オリンピックだから」あのようになってしまったというのはありますし、最近の大会の試合では負ける試合でもストレートで負けることは少なかったのですが、今回は全部やられたという感じだったので、「オリンピックだからなんでも起こるんだな」というのは思いました。

――一転してシャン・シャオナ選手戦では張本選手らしいプレーが見られました。

美和 感覚もあまりなかったし、その原因はメンタルだったので、1ゲーム目の序盤も2-7でリードされていて、「もう終わったな」という考えが正直心の中ではありました。
 負けるとしても自分のプレーを出して負けたいという思いがあったので、そこからはもう負ける覚悟で1本でも多く取ってやるという気持ちでプレーして、挽回することができたという感じです。
 カウフマン選手との試合では、相手が強かったというのもあるんですけど、思い切ってやろうと思ってもできない部分もありました。シャン・シャオナ選手もちろん強いですし、ベテランの選手でしたが、それは関係なく自分のプレーで行こうという感じで試合していました。

――シャン・シャオナ選手はペン表速攻型の選手ですが、その点でのやりにくさはありませんでしたか?

美和 シャン・シャオナ選手とは練習は何回かさせていただいたことがあるんですけど、試合はやったことがなくて、他のペン表の選手とも試合をしたことがなかったので、本当に初めてで、最初はサービスや3球目でやりづらい部分はありました。
 ただ、「あれもこれも難しい」と思っていたら1試合すぐに終わってしまうので、そこはもう受けずに調整してやろうという感じで調整しました。

――自分の手で決勝進出とメダルを確定させたというところではうれしさはありましたか?

美和 そうですね、やっぱりありましたね。ただ、メダル確定のうれしさというのは勝った瞬間にはなくて、やっぱり最初から目標にしていたのは金メダルだけだったので、「やっと金メダルに挑戦できる決勝まで行けた」というのはうれしかったですし、何より一番は自分のプレーが戻ってきたのは、すごくうれしかったというか、ほっとしました。自分が負けたとしても良い試合、自分らしいプレーが戻ってくれば自分の中ではプラマイゼロじゃないですけど、いいかなと思いながら試合をしていたので、勝った一瞬は本当にやっと戻ってこれたという感じですごいほっとしました。
 平野選手と早田選手はずっといい状態でずっと試合をされていたので、本当に決勝は私次第だなというのがありましたし、いい状態で決勝に進むことができて、本当にほっとしていました。

シャン・シャオナに快勝し、決勝進出を決めた張本。自分のプレーと笑顔が戻ってきた(写真提供=ITTF/ONDA)

「中国とやるには、相手が考えてなさそうなことをやるしかない」

――決勝の中国戦では日本がオーダーをそれまでと変えて、張本選手は早田選手とダブルスを組みました。これは想定内のことでしたか?

美和 そうですね。日本でやった事前合宿の時に、もしかしたら(ペアを組むかもしれない)ぐらいの話をしただけで、オリンピックが始まってからこの話はまったくしていませんでした。試合前にみんなで相談してオーダーを決めるという感じだったので、準決勝でドイツに勝った日の夜に監督に「どういうお考えですか」と聞いたら、「このオーダーで行こうと思っている」と言われて、決勝まで1日あったので、そこで早田選手とダブルスの練習もすることができましたし、心の準備もできたので、想定内といえば想定内でした。
 でも、決勝で急にペアを変えたので、自信を持てるところまではいきませんでしたが、「中国とやるには、相手が考えてなさそうなことをやるしかない」というのはチーム内で今までも話をしていたので、しっかり準備しました。

――張本選手は今大会で初のダブルス出場でしたね。

美和 シングルスの相性も考えて孫穎莎選手に勝ったことがある平野選手がシングルスに起用されたので、早田選手とは公式戦ではちゃんと試合したことが一度もなくて、本当に決勝戦が初めての試合で、結果としては思ったよりはすごくいいプレーができました。
 でも、あとちょっとで勝ちきれなかったのはすごく悔しいですし、相手も対策できない中で、あそこまで追い詰められたことはすごいよかったことであるんですけど、次、早田選手と組んで中国選手と対戦する機会があったときは、より難しい試合になると思います。あの時は本当にあの策が最善だなというのはみんなでしっかり考えて決めて挑んだので後悔はないですね。

――張本選手のプレー内容も素晴らしかったですね。最終ゲームも9-5とリードしていてあと一歩という内容でした。

美和 最終ゲームで5-5から9-5までの4点は、私と早田選手のプレーがすごく光って取れた点数だったんですけど、逆に中国選手が何かを変えて少し思い切りのよさが出たのが9-5からで、9-7からの2本の自分のサービスは少し選択ミスしてしまったりとか、自分のサービスの質が悪かったせいで打たれてしまったりして、そこが本当にすごく悔しい部分です。でも、9-9で追い付かれてからも、リードされているわけではないと思いましたが、本当にそこからは中国の強さを感じました。
 でも、正直に言うとあそこまで行けるとは思っていなくて、初めての試みで行けるところまで行こうという感じだったので、あとちょっとだったのは悔しいですね。
 自分は第3試合のシングルスが残っていたので、ダブルスの負けはあまり引きずらずにすぐ切り替えていこうという感じでした。ダブルスの中でも感覚はすごくよかったので、そこはシングルスに生かすしかないと思いながら準備していました。

早田とペアを組んだ初めてのダブルスでは中国ペアを追い詰めたが......(写真提供=ITTF/ONDA)

「目指していたのは金メダル。
この銀メダルを糧にもっと頑張ろうと思った」

――3番の王曼昱選手戦もいい形で入れましたね。

美和 王曼昱選手とは今までアジア競技大会だったり、ワールドカップでも対戦して正直、孫穎莎選手と陳夢選手よりはやりやすい相手でしたが、ミスしないのが強みで、1ゲームは取ったりとか少し競ることはできますが、やっぱり終盤になって相手が慣れてくるとやられてしまうという印象でした。
 過去2度の対戦も、最初は1ゲーム目、2ゲーム目を取ったりしても、途中から相手が攻略して、戦術を変えられたと分かっても、そこで頑張りきれませんでした。
 もちろん相手が1枚上手というのはありますが、王曼昱選手とは久しぶりにやるので、サービスやレシーブの部分でリードできて、1ゲーム取れましたが、慣れられてしまうとやっぱりラリーの勝負になるんですよね。3球目、5球目ではまだ上回れていないと感じています。

――王曼昱選手に1対3で敗れてしまいましたが、日本女子の銀メダルという結果はどう受け止めていますか?

美和 うれしさ半分悔しさ半分という感じです。もちろん目指していたのが金メダルだったので、銀メダルは悔しいですけど、私自身は初めてのオリンピックだったので、銀メダルを取ることができてうれしい気持ちもあります。チームに迷惑をかけてしまった時もあったと思いますが、貢献もできたと思うので、自分にもお疲れ様という感じで、銀メダルはすごいうれしかったです。
 でも、同時に、まだまだ足りないなというのも感じたので、この銀メダルを糧にもっと頑張ろうという気持ちになりました。

――16歳という若さでオリンピック銀メダルという点についてはご自分ではどう感じますか?

美和 リオの時は伊藤選手(伊藤美誠/スターツ)は15歳だったと思うので普通?(笑)
 年齢は関係ないスポーツですが、いつも通りのプレーができたというのは自分でもびっくりしていて、今後の自信に変えてもいいんじゃないかなと思いました。でも、やっぱり金メダルが欲しいので「(16歳で銀メダルは)普通」ですね。もっと最高の金メダルが取りたかったなという感じです。

――オリンピックの独特さという点では何が一番他の大会と違いましたか?

美和 相手選手も自分もそうなんですけど、やっぱり気合とか執念とかは違うなというのはすごく感じました。
 特に、シングルスの3位決定戦、メダルを取れるか取れないかで全く違う世界になると思うんですけど、早田選手と申裕斌選手(韓国)の試合は見ていて感じるものがあって、そこは普段の大会では感じることができないような感覚だったので、「4年に1度」というのがみんなの心を燃やすというところは本当にいつもと違うなと感じました。

王曼昱からは第1ゲームを奪う健闘を見せたが、ラリー戦で競り負け牙城を崩すには至らなかった(写真提供=ITTF/ONDA)

「次はシングルスでも出場したい」

――最後に今後の目標を聞かせてください。

美和 技術の面やいろいろな選手との対戦ももちろん今後にもつなげられますが、一番はメンタル面ですごく成長させられた大会だなと思っています。やっぱりオリンピックというのは普通の大会とは全く違う感覚で、会場も違う中でそこで感じたもの、得たものというのは今までなかったものだったので、そこは今後にすごく生かしていけるなと思いましたし、負けた試合からも勝った試合からも本当にいろんなことを学ぶことができたので、そこは今後の自分の人生、そして、成長につなげられると思といます。

――また、オリンピックの舞台に立ってみたいと感じましたか?

美和 もちろん次のロサンゼルスオリンピックを目指していますし、次はシングルスでも出場したいなという思いはあります。選考基準は変わるかもしれませんが、一番大事なのは自分の実力を上げていくことに変わりはないので、そこはしっかり頑張って成長して、次のオリンピックでリベンジを果たせるように、これから頑張っていきたいです。

――4年後、自分がどんなプレーしていたいとか、どのくらい強くなっていたいのかという具体的なビジョンがあったら教えてください。

美和 自分が勝った選手の中にも、その日調子が悪かっただけで、自分より強い選手がいると思いますし、やっぱり自分が負けている選手に勝ちたいという気持ちは変わらないので、4年後、もっと勝てるように成長していきたいなと思っています。
 まずは、自分のできないところをできるようにした上でどの選手に勝ちたいとかは、自分がその時に足りない部分で変わってくると思うので、自分の成長を止めずにどんどん成長していけたらなと思います。
 具体的には、今回、パワーのある選手に対して対応する力が十分ではないというのを一番感じました。もちろん中国戦ではミスの少なさや戦術の部分でやられた部分はありますが、私は身長は高い方ですが、まだ十分にボールにパワーを伝えられていないところがあると思っているので、パワーをもっとつけていくことが大事だと思っています。また、パワーのあるボールを受けたときにもっと取れるように、パワーのあるボールを打たれても自分の有利な場面にできるようになったらいいなと思っています。

(写真提供=ITTF)

 これまで技術特集「張本きょうだいのバックハンド」で取材は一度行っているが、インタビューという形での張本美和選手への取材は今回が初めてとなった。
 弱冠16歳ということを忘れてしまうほど、そのたたずまい、話しぶりは明晰さと誠実さにあふれていて、彼女の卓球のプレーそのもののように、強さと真摯な姿勢が強く感じられた。
 だが、もちろんそうした聡明さや真面目さだけで、10代半ばでオリンピックのメダルを取るようなトップアスリートが務まるわけがない。ときに兄を萎縮させるほどの強い態度を見せ、ときに試合会場の一角でK-POPアイドルのダンスを披露するような大胆さをも彼女が備えていることは、既に多くの読者の知るところだろう。
 そうした振れ幅の大きさは、卓球選手としての張本美和に今以上の奥行きの深さ、豊かさを与えてくれるに違いない。

(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)

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