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全日本王者 及川瑞基インタビュー
⑤「09Cの良さが分かるまで使い続けてよかった」

「ちょっと、それ貸して!! 第4回 及川瑞基 × 三部航平」で用具に対して独特のこだわりを見せた及川瑞基(木下グループ)だが、ここでも驚きの告白をしてくれた。なんと、全日本の開幕1週間前にバック面のラバーをディグニクス80からディグニクス05に変えたというのだ。
 全日本卓球レベルのビッグイベントの直前に用具を変えることは、よほどのことがない限り、ほとんどの選手が避けたいところだろう。しかし、及川は大きな抵抗感もなく変更に踏み切ったという。

全日本の1週間前に変えたバック面ラバー

及川 自分は結構用具を頻繁に変える方なので、大会前でも「変えよう」と思ったら変えることはありますね。バック面は、水谷さん(水谷隼/木下グループ)に勧められてディグニクス80を貼っていたんですが、今回は、もうちょっとバック面にグリップ力がほしいと思って、ディグニクス05に変えました。ディグニクス80は、バック対バックですごく鋭いボールが入って、チキータもやりやすかったんですが、カウンタードライブの安定感で最後はディグニクス05に決めました。
 特に、試合の中で、僕が相手のバック側に厳しくツッツいて、相手が持ち上げたループドライブに対して、無理に回り込まずにバックハンドでカウンタードライブしたいというシーンがよくあるのですが、そういうときに、ディグニクス05だとしっかりラバーに食い込んでくれる感触があって、安心して使えると思ったのが変更の大きな理由です。
 また、相手にチキータされたときのチキータ処理もやりやすく、ツッツキなどの下回転のボールに対しても、しっかり弧線を描いて台に収まってくれる感じが自分に合っていると感じて、安定感重視でディグニクス05に変えました。
 フォア面は、1年以上前からディグニクス09Cを使っています。ちょっとだけディグニクス05も試してみましたが、すぐにディグニクス09Cに戻して、ずっと使い続けています。ディグニクス09Cは使い続けないと使いこなせないラバーだと思っているので、ラバーを信じて使い続けてきました。
 ディグニクス09Cは他のディグニクスやテナジーと違って、ちょっと使いこなすのが難しいところがあると思います。特に、回転量が多い下回転のボールやドライブに対しては、ラケット面を伏せて薄く当てて、後ろから前にスイングしないといけないので、そこは練習が必要ですね。
 フォア前のフリックも強くインパクトする必要がありますし、ダブルストップも自分から力を入れて切らないとネットにかかってしまうことがあります。バック対バックからフォア側に振られたときなども、薄くこする打ち方でカウンタードライブをしないとネットミスしてしまいます。だから、ちょっと試してみてやめてしまう選手が多いと思いますが、良さを生かすことができれば、すごく安心して使えるラバーだと思います。
 バタフライ・アドバイザリースタッフとして、こういう言い方はよくないかもしれませんが(笑)、ディグニクス09Cの良さは1日や2日では分からないと思います。少し癖はありますが、食い込みの良さ、回転のかけやすさがあって、相手コートでバウンドしてからの弾みも良く、取りづらいボールになってくれるので、パワーで押し切るよりもミスを誘いたい僕には合っていますね。
 また、回転量が多いだけでなく、変化(回転量の差)でも得点できるので、そういうプレーでも相手のミスを誘えるところは気に入っています。回転をかけたときはボールがしっかりと弧線を描いてくれるので、競り合ってたり不安な時も安心して使えます。
 僕は1年間使って、ようやくどういう打ち方をしたらどういうボールがいくかということが感覚的に分かってきたところですが、このラバーの良さが分かるまで使い続けてきてよかったと思っています。
 ブレードは、ビスカリアをベースにしたアリレート カーボンのラケットを使っています。僕は、木材のラケットを長く使っていたので、打球感が木材に近いレボルディア CNFも一時期試してみましたが、ディグニクス09Cにはもうちょっと弾むラケットの方が合うと思って、アリレート カーボンのラケットに戻しました。
 僕の組み合わせは全体的に安定感重視だと思いますが、攻撃したいときは威力が出ますし、守りたいときはしっかり相手コートに入ってくれる、バランスのいい組み合わせだと思います。

 ここまでのインタビューで、多くの読者に、及川が真摯に卓球に向き合う様子は十分に感じ取っていただけたと思う。その及川がこれから目指すところはどこなのか?
 インタビューの最後に、これからの目標、そして、どんな選手になっていきたいのかを聞いた。

及川 僕は子どもの頃から変わらず卓球が好きなんですよね。練習で単純にボールを打つのも好きだし、試合をするのも好きだし、普段から卓球の動画もたくさん見ますし。
 選手では昔からティモ(ボル)が好きで、プレーもですが、人柄も含めて一番好きなんですよ。サービスのコースを一球一球変えたり、台に着く時のしぐさとか、とっさにバックハンドを打つ時の姿勢とかは、まねというか、かなり意識しています。
 ドイツではバスティー(シュテーガー)にもかなり影響を受けました。しなるようなバックハンドやYGサービスの出し方を参考にさせてもらっています。
 もちろん、水谷さんにもすごい影響を受けていますね。攻守のバランス、特にディフェンス力の高さは見習いたいと思って練習しています。サービスの出し方や配球からもまだまだ学ばなければいけないところがたくさんあると思っています。
 とりあえず、来月、久しぶりの国際大会があるので(※編集部注 このインタビューは2月1日に行った)少しでもいい成績を残して世界ランキングを上げるのが目標です。
 まだちょっと先の話になりますが、2024年のパリオリンピックの代表に選ばれて活躍することは、選手として一番大きな目標ですね。そのためには2023年が勝負の年になると思うので、そこに向けてエンジンをかけていきたいと思っています。
 選手としては長くやりたいと思っていますが、オリンピックの代表を目指せるくらい脂の乗っている時期は長くないと思うので、プロとしてやっているからには、パリとその次のオリンピックくらいまでを目指して頑張っていきたいですね。

 及川の試合ぶりやインタビューから一貫して感じるのは、彼の卓球への飽くなき求道者としての姿勢だ。
 だが、試合での職人のような寡黙ぶりから一転して、取材には饒舌に応じる及川からは、生真面目さだけではなく、どこか楽観性のような軽さも伝わってくる。その楽観性は海外でも自分を貫けるタフさや、チームメートたちから慕われる一因になっているのだろう。プロとしてストイックに勝利を追い求める一方で、楽しむことも忘れない貪欲さは、卓球選手として、また、人間としての及川の魅力でもある。
 及川がこのインタビューで語ったように、彼の本当の勝負はこれからだ。長い選手生活の間には「全日本チャンピオン」の看板が重くのしかかることもあるだろう。だが、及川なら、どんなに苦しい場面でも、ボールを打つことの原初的な楽しさを忘れずに、卓球の新しい魅力を発見し、それを私たちに伝えてくれるような気がする。
「卓球にはこんな勝ち方もある」「卓球にはこんな楽しみ方もある」と。(文中敬称略)



(まとめ=卓球レポート)

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